鉄道開業150年 時刻表2万キロの旅 [本]
鉄道の旅にはそこはかとない旅愁を感じます。日本映画で「鉄道員」という映画がありました、鉄道員の時間に対する謹厳さが滲み出ていたような映画でした。自分の父親も「ぽっぽや」でしたので思いを寄せる部分もあったと思います。父親が亡くなった時、遺品で時計がいっぱい出てきました、それもブランド物なる時計は一つもありません、「なるほど」鉄道員とはこういうものかと妙に感服しました。
さて、この鉄道開業150年を記念したイベントや記事がマスコミに取り上げられるのに触発されて読んだ面白い本をご紹介いたします。書名は「時刻表2万キロ」宮脇俊三著 この本は昭和59年11月初版ですので40年程前の本です。内容は国鉄全線踏破の記録でして昭和53年6月に全線乗り潰し完了に至るのです、本の巻頭時既に90%に乗っていて、全線踏破を目指したのはこの時点からという事で、残り10%の未乗区間の記録です。この時国鉄全線は2万キロの乗車区間を持っていたのです、しかし国鉄廃止、民営化によって赤字路線解消が叫ばれ現在の総キロ数は1.9万キロ、あまり減っていないように感じますがローカル線は惨憺たる状況になっています。北海道は国鉄時に3千キロ、現在2千キロになっています。推測ですけど新線開業は都市部で、廃線は地方という傾向で整理されて総キロではひどく減っている訳ではないのでしょう。15年程前岩手県に行った時東北本線の運行はひどく不便で、新幹線にほとんど取って変わられていました。だから東北本線の駅に行くには難儀なことになってしまうのです。これで乗車人員が減るとまた廃線になるという負の連鎖で縮小されていくのでしょう。
この本の面白さは著者の文章力がしっかりしている事、(著者は中央公論の編集長、ほとんどプロの作家です)次にこんなバカな事を生真面目に執着している事への冷めた目を持っていることです。そして残り2000キロ踏破が想像を超える苦難だった事 この辺をゆっくり楽しむ旅の記録です。全篇に渡って紀行文のような風景描写はなく、終始時刻表にある列車接続とその路線の歴史が記録されています。
著者曰く「時刻表は愛読書」と言ってます、松本清張「点と線」で犯人の奥さんが時刻表を愛読書にしている場面がトリックの肝になっています、正にこの世界の話しです。
何ともこの偉業について感じるのは「行為に対する家族の感情や会社の仕事、費用」 よくも許された行為と感服しました。
会社に管理された現代人にはあり得ない話しでした。