万葉集 美しい歌に潜む影 [本]
万葉集2回目は読み進めている中でふと気付いた事です。
万葉集を代表する歌です。[大意は ムラサキの植えてある園に行き 禁園に行きなどして、番人が見ているではありませんか。それなのにあなたは袖を振っている] 注釈では流麗で言情兼ね備えた最高度の作歌技術、集中の名作と言わしめています。詞書(ことば書き)は「天皇の蒲生野に遊猟したまふ時、額田の王の作れる歌」 天皇は天智天皇で恋愛関係にあった事は周知の事実だったようです。
この歌には時代が透けて見えて来ます。「紫野行き 標野行き」とは入園禁止の猟場を指し、この自然園で貴族がムラサキ草等の薬草取りをしたり、鹿や兎等の狩りをする御猟場です、野守はその番人。毎回楽しみにしている「鎌倉殿の13人」でも巻狩りをしている話しが出てきます。このような猟場は当時諸国に作ってあったようで紫草園と言って、国司が巡回して妄りに人の乱入を禁じていたのです。この歌の場所は滋賀県蒲生郡の野をあてています。このような園地は時代が下ると「荘園」と言われるようになり、この荘園の管理人が武士となり鎌倉時代になると武士の領地となるのです。そして武士はこの土地に「一所懸命」となって命を懸けて行くのです。
歴史の流れを俯瞰すると経済的な戦いが時代を回天させて行きます、古代の歴史に名が残る人達は「領土と人間と食物」を占有した人達です。庶民は権力者の庇護の元生きてきたのです。この時代の荘園に働く農民は農奴であって、農産物の生産に加え防人等の軍務と古墳等の築造に駆り出される公的労働に従事したのです。だからこの時代から戸籍を作ったり(庚午年籍)して国を上げて人口管理をしていた訳です。領民は財産です。
因みにアメリカ合衆国では今も戸籍はないようです。
日本は戸籍を持って1300年経過しています。これより400年前の「魏志倭人伝」には魏の皇帝に卑弥呼は「生口」を献じたと書かれています。「生口」は奴隷です、貢物として布や特産物より勝る物だったのでしょう。過酷な荘園支配に農民は自由を求めて耕作放棄して逃げ出してしまいます。逃げ出す先は古来より山間部が通り相場ですが、このように管理されている自然園は食物が豊富なので、きっと庶民が立ち入り禁止等関係無く乱入したと推測しています。だから番人が置かれたのです。
万葉集中最高の恋愛歌の光の部分には美しい風景描写が見えて来ますが、その影の部分には歴史の残酷な現実が仄かに透けて見えてきます。
戸籍が何故重要なのか?
万葉集を読んで妙に納得した事でした。
万葉歌碑の旅 多摩川編 [旅行]
「多摩川に曝す手作りさらさらに 何そこの児の ここだ 愛しき」巻14 3373 ( 大意 多摩川で曝す手作り布のように、さらさらにどうしてこの子が非常に可愛いいのだろう。)
暑い日が続いています、気だるい午後の強い陽ざしに外出もままならないので万葉集を読み進めています。
読むだけでは面白くないので万葉散歩も兼ねてみました。関東で万葉散歩はちょっとネタ不足ですが、それでも各地に万葉歌碑が散在していますので訪ねてみようと思っています。最初は手近な所から始めてみたいと思っています、最初の訪問地に決めたのは東京「狛江市万葉歌碑」です。冒頭の1首です、ここの歌碑は由緒ある万葉歌碑でした。
建立者は「松平定信」 あの寛政の改革で有名な人です。その後多摩川洪水で流失したものを大正11年に再建したものだそうです、歌碑の為の公園になっていました。ここは調布市が隣町ですので調布という地名からも手織の布の名産地だったのでしょう、また調布市には布田という駅もありますから大和朝廷に「調」の産物として献上していたのかもしれません。近くに布田道という道があり、この道には近藤勇が歩いた道筋が残されているようです。意外にも古代から江戸期まで歴史的な場所のようでした。分類上この歌は「武蔵の国相聞往来の歌」に入ってます。
「橘の古婆のはなりが 思ふなむ 心うつくし いで吾は行かなむ」巻14 3496 (大意 橘の古婆の若い子が思っているだろう心が可愛いいのだ。さあ私は行こう。)
橘は地名で橘樹の郡、郷。古婆は不明らしいですが地名だろうと推察されています。「はなり」は結い上げずに下げてある髪のこと。したがって若い子に置き換えています。この近くには「橘樹の官衙」や8世紀創建の影向寺があり、古代から栄えていた地域のようです。意外な古代の足跡を知りました、「たかつ散歩道」なるものがあり古墳やお寺・神社を巡るコースが設定されています。この散歩コースも涼しくなったら巡ってみようと思っています。
さて、日本列島を覆う異常気象が各地で災害を引き起こしています、この国の為政者には何か本当に向き合って対策を考えてもらいたいと切に願います。
この温暖化現象に対してこの国の意識は低いと言われていては「万骨枯る」ということにも成りかねないと心配しています。